学会発表:濱田博之(2004)

発表タイトル:
東京大都市圏西部における工場移転動向の変化

発表学会等:
日本地理学会(2004年度春季学術大会)
2004年3月27日、東京経済大学

要旨:
1.研究の視点
  東京大都市圏における工業空間は、基本的には都心から郊外へと拡大をみせてきた。そうした郊外地域の工業化に工場移転が大きな役割を担っていることが指摘されているにも関わらず、工場移転そのものについて充分な検討がなされてきたとはいえない。特に中小工場の移転については自治体の調査で従前地や移転先を把握するなど局所的な把握ができるのみであり、広域的な視点からの移転動向の把握はなされていない。こうした中小工場を含めた工場移転の動向が、年代ごとにいかなる変化をみせてきたか、この点について明らかにすることは、東京大都市圏の工業空間がどのような経緯をもって拡大してきたかを探るうえで重要な手がかりを示すことといえる。
  このような問題意識に対し本報告では、「全国工場通覧」を用いることで1970年代以降、工場移転の動向が年代によってどのような変化をみせてきたかを明らかにする。

2.既存統計からの移転動向把握
  まずは「工場立地動向調査」から大まかな移転動向について整理する。このなかでは工場の新規立地を移転と増設とに大きく分類しているが、移転による立地が占める割合は全国が50%前後、関東臨海地域が60%前後で推移してきており、移転による立地が小さくない役割を果たしていることがいえる。関東臨海地域への他地域からの流入はほとんどなく、ほとんどが同地域内からの移転となっている。一方で関東臨海地域からの移転先としては、関東臨海地域が最も多く、次いで関東内陸地域、南東北地域となっており、この3地域でほとんどをしめている。これらから工場移転は都市的地域から周辺的地域へと向かう動きが中心で逆の流れはほとんどみられないこと、移転先としては自地域内を指向する傾向にあることがいえる。
  この傾向は「八王子市工業実態調査(2001)」からもある程度は把握できる。市外からの移転によって八王子市に立地した製造業企業の創業地は、多くが城西地域から多摩地域にかけてであり、神奈川県を含めた東京都外からの流入は極めて少ない。

3.工場通覧を用いた工場移転の把握
  全国工場通覧から東京都および神奈川県に立地する電気機械器具製造業の工場に注目することで、東京大都市圏西部における工場の移転動向の変化について把握した。ここで電気機械器具製造業を対象としたのは、東京大都市圏西部郊外地域において卓越した業種であることによる。期間としては1970-80年、1980-90年、1990-94年の各期間について比較を行った。また同一市区町村内での移転は対象外とし、集計にあたっては東京都を東京区部・東京多摩の2地域に、神奈川県を神奈川横浜・神奈川川崎・神奈川内陸の3地域に分類した。
  1970-80年においては東京区部からの移転が全体の54.0%を占め他を圧倒していた。最も移転が活発だったのは東京区部から東京多摩に向かうもので、基本的には東京区部から東京多摩を中心とした郊外地域へと向かうものになっていた。しかし年を経るにつれて東京区部の存在感が薄れる一方、移転が郊外地域で完結していく傾向がみられる。1990-94年においては最も多いのは神奈川内陸地域内での移転で25.0%を占めており、これに東京多摩から神奈川内陸への移転が14.6%で続いた。また東京都区部からの移転について注目すると、1970-80年には都区部内や多摩地域へが主だったが、次第に神奈川内陸地域へと重点を移していった。東京多摩から神奈川内陸への移転も増加しており、このことはかつて東京多摩が東京区部の延長に位置づけられたように、現在では神奈川内陸が東京多摩の延長として位置づけられているのではないかと考えさせる。東京大都市圏西部の工業空間は、その方向を変化させながらも現在なお拡大し続けているといえる。