学会発表:濱田博之(2004)

発表タイトル:
東京大都市圏西部における工業空間の拡大と自立化

発表学会等:
経済地理学会(関東支部例会・修士論文発表会)
2004年4月24日、お茶の水女子大学

要旨:
  近年の東京大都市圏では工業空間が外延的に拡大していることがいわれているが、郊外における工業集積の実態は必ずしも明らかになっていない。そこで本研究では特に西部地域にあたる東京都および神奈川県に注目し、郊外地域が工業化していく様子を定量的に把握した上で、フィールドワークから西部郊外地域に形成された工業集積の特徴について明らかにした。
  東京多摩や神奈川内陸といった郊外地域は、電気機械や輸送機械、一般機械などの機械器具製造業が卓越した地域であり、これらの業種を中心に両都県内における出荷額シェアを増加させている。またR&D比率が全国的にみても突出して高いことも特徴としてあげられるが、これは立地する大規模工場が単なる生産拠点から研究開発や試作を中心としたマザー工場へ転換したことが要因となっている。
  郊外地域が工業化していった過程では、都心部からの工場移転が大きく影響しているとされることから、「全国工場通覧」を用いて広域的、経年的に工場移転動向を把握した。その結果1970-80年には東京区部が移転元として大きな影響力を持っており、郊外地域へ放射状に移転していく流れが主であったものが、1990-94年にはそれまでほとんどみられなかった郊外地域内での移転が多くを占めるようになったことが明らかとなった。これらの動きは、これまで相互の関連が薄かった郊外の各地域が、近年ではその関係を強めていることを示すものといえる。
  これらの結果を受け、郊外地域でも特に集積がみられる相模原市と八王子市の電気機械器具製造業企業を対象として調査を行った。その結果、両市とも1980年代前半にスピンオフによって創業した企業が中心となっており、自社製品開発や研究開発の機能を持つ企業が多いことが明らかとなった。また主な取引先が東京区部や全国にあるのに対し、外注先は同一市内が主となっており、出荷前段階の取引連関は郊外地域内で完結する傾向にある一方、市場は全国的に展開させていた。
  郊外地域にはスピンオフ元となる大企業、産学や異業種交流の機会などが存在することもあり、単なる下請けにとどまらない自立化の傾向を持つ企業の創業が促され、集積地域が形成されてきているものと考えられる。