学会発表:濱田博之(2005)

発表タイトル:
東京大都市圏西部における中小企業ネットワーク形成と地域プラットフォーム

発表学会等:
日本地理学会(2005年度春季学術大会)
2005年3月28日、青山学院大学

要旨:
1.研究の視点
  経済産業省は2001年度より産業クラスター戦略を推進している。これは地域の企業や研究機関との連携を活発にし、イノベーションを盛んにして産業競争力の強化を図ることを目指したもので、全国で19の広域的地域・産業分野が指定されている。
  このクラスター計画の先進的な事例として取り上げられるのが、経済産業省関東経済産業局によって示された「広域多摩」とよばれる地域である。広域多摩は東京大都市圏西部の東京都・神奈川県・埼玉県にまたがり、TAMA(Technology Advanced Metropolitan Area=技術先進首都圏地域)とも称される。東京大都市圏郊外に位置する優位性、また研究開発機能を有する中小企業の多さを意識した新しい工業連関のあり方が模索される地域である。しかしこれまで中小企業同士の横のつながりは必ずしも活発に行われてこなかった。そこで連携を目指した地域プラットフォームとして、広域多摩においては(社)首都圏産業活性化協会(通称:TAMA協会)が設立された。
  そこで今発表では産業クラスター形成において、鍵となる広域的な連携を促進させる機関としての地域プラットフォームについて、TAMA協会を事例として取り上げ、具体的な役割と成果について検討する。

2.TAMA協会の概要
  1996年に関東通商産業局(当時)は広域多摩の実態調査を行い、この地域に製品開発型の中小企業が数多く存在し、ネットワーク型の産業集積を形成していることを明らかにした。そこで地域内のポテンシャルを活かした産業活性化の道を探るため、企業や大学などの連携を促進する機関として、関東通商産業局の呼びかけで1998年に任意団体としての「TAMA産業活性化協議会」が結成された。同協議会は2001年に改組され、現在の「(社)首都圏産業活性化協会」(通称:TAMA協会)となっている。このような関東通商産業局の積極的かつ素早い対応がTAMAの成立を後押ししたといえる。
  会員数は、前身の協議会発足時(1998年4月)に388だったが、その後は順調に増加し続けており、現在(2004年11月)では617(企業会員305、個人会員43、大学会員38、商工団体81、自治体22、コーディネーター128)となっている。
  会員の地域的分布は、企業会員に限ってみると東京多摩128、東京区部61、神奈川県33、埼玉県47、その他10となっており、特に八王子市(会員数31)、相模原市(同22)、立川市(同16)、青梅市(同15)などに多い。
  TAMA協会では企業間のみではなく産学間の連携も支援しているが、産学連携の「産」はあくまで研究開発機能や製品開発機能を持つ中小企業を対象としており、基盤技術型の企業は地域の中核となるような有力企業のみを対象としている点が特徴的といえる。すなわち「中小企業全般の底上げを図るものではない」点に注意する必要があり、他の中小企業に対しては「製品開発型中小企業の力をつけることによって、その波及効果を外注関係等を通じて」与えることが意図されている。

3.TAMA協会の成否
  TAMA協会の試みが、果たして成功しているものなのか、判断は非常に難しい。これは前身となった協議会時代を含めても発足から未だ5年ほどしか経過していないことが大きい。
  成否についてTAMA協会側は「会員数の順調な増加は一定の評価を得ていることを示している」としているが、地域の企業全体に対する会員企業数が少ないことから「影響はさほど大きくない」とする報告も存在するなど評価は一定しない。
  また広域多摩という地域設定についても課題は残る。広域多摩は極めて広汎な地域を指しているため、地域としての一体感に乏しい。産業クラスターとしての枠組みには地域としての一体感を抱かせる地域アイデンティティが不可欠である。TAMAを産業クラスターの先進的な事例として継続して発展させていくのであれば、広域多摩という地域的な枠組みを再考する必要があるだろう。この点に対してTAMA協会は都県ごとに開催される「ミニTAMA会」を開催するなどして対応しているが、一方で広域的な連携という当初の目的からの乖離が心配される。