学会発表:濱田博之(2009)

発表タイトル:
工場閉鎖と跡地利用の全国的動向

発表学会等:
日本地理学会(2009年春季学術大会)
2009年3月28日、帝京大学

要旨:
1.研究の視点
 閉鎖は工場の立地動向を探る上で基礎的な情報であるにもかかわらず、これまで積極的には扱われてこなかった。特にマクロな視点からはその傾向が顕著である。その理由としては、検討するにあたって必要となるデータの入手が困難だという点があげられる。全国的な工場閉鎖の動向ですら廃業率などの推計値に頼らざるをえず、統一した基準をもとに閉鎖工場を取り上げたリストも存在しない。さらに閉鎖工場に対してはアンケート調査を行うことも難しく、閉鎖要因や跡地利用についての検討もこれまで充分になされきたとはいえない。
 そこで本発表では、日経新聞記事データベース(日経DB)を用いることで、日本における工場閉鎖の動向について明らかにしていく。

2.分析対象
 日経DB(DVD版)を用いて1975年から2000年までの26年間を対象に「工場」と「閉鎖」の両語を含む記事を検索したところ、1,876件の記事をが抽出された。これについて海外の工場に関する記事や工場閉鎖とは無関係の記事を除き、重複する記事を整理したところ、574社823件の閉鎖が確認できた。新聞記事という特性上、すべての工場閉鎖を網羅したデータではないが、動向を捉えるには充分な数と考えられる。

3.閉鎖工場の概要
 日経DBの特性から、件数の増減を絶対的なものとして捉えることはできず、相対的な変化をみるほかない。閉鎖年が明らかな669件についてみると、円高不況の1987年に31件と最初のピークがあり、バブル好況にともなって件数は減っていくが、1993年頃から再び増加して、1996年には70件と2度目のピーク、2000年には91件と3度目のピークを迎えている。基本的には好不況の波に合わせ、閉鎖件数は増減を繰り返している。
 所在地について823件をみると、もっとも多いのが神奈川県の80件(9.7%)で、東京都68件(8.3%)、大阪府63件(7.7%)、静岡県43件(5.2%)と続く。工場数の多い地域で閉鎖件数が多い傾向はあるものの、静岡県での閉鎖が多いことなどそれだけでは説明できない点もある。
 大阪府の工場閉鎖が全国に占める割合は、1990年代まで6%程度だったものが、2000年代には16.6%を占めるまでになっており急増している。特に2000年には19件と全国91件の20.9%を占めており、なかでも金属関係の工場閉鎖が目立った。

4.閉鎖工場の類型化
 工場の閉鎖要因を@移転、A集約、B廃業、C撤退、D外部化に分類したところ、687件について類型化することができた。そのうち468件(68.1%)を集約による閉鎖が占めており、次いで移転によるものが118件(17.2%)、撤退によるものが34件(4.9%)などとなっている。対象期間における工場閉鎖は、閉鎖した工場の生産能力を他の既存工場に移管し、既存工場の稼働率を上げることで収益性の改善を見込む「集約による閉鎖」がほとんどだった。また最近になるにつれ集約による閉鎖の占める割合は大きくなっている。生産能力の移管先は国内が多く、なかでも閉鎖した工場の近隣に移管するものが目立つ。

5.閉鎖工場の跡地利用
 工場の閉鎖にあたっては、生産能力の集約による収益性の改善が多くの場合に目指されていることから、用地は売却するものが54.2%、引き続き自社で保有するものが32.7%と、跡地は売却し借入金の返済など経営内容の改善にあてる事例が多い。
 跡地所有−利用主体の関係でみると、自社−自社が50件、自社−他社が40件、売却−他社が26件となっており、それぞれに用途が異なっている。自社−自社は倉庫や配送センターなどの物流施設(40.0%)やオフィス(24.0%)、自社−他社は商業施設(45.0%)や工場(20.0%)、売却−他社は工場(34.6%)や学校などの公共施設(30.8%)が目立つ。
 また東京都や神奈川県などの大都市部や地方都市の中心部では住宅や商業施設が多いなど、地域による違いもみられる。